60年代の父親がわからない

私は前向きな人が好きだ。やったことがない何かに挑戦する人が好きだ。

娘はよく父親と性格が似たような異性を好きになると聞くが私はまったくもって御免だ。

 

今はお母さんとお父さんと私の3人暮らし、兄は結婚して横浜にいる。

もともと兄とお父さんは話しをするような仲ではないが決して家族で仲が悪いわけじゃない、ただ何か話さないだけ。

 

自営業でずっと家族を養ってきたけど、私が中学か高校の頃に会社を畳んで借金がいくらか残った。

やたら頑固で無駄に、馬鹿みたいにプライドが高いお父さんをずっとみてきた。普通のお父さんと呼べる程普通でなく、変わった人。

 

昨日、夜中におきてきたお父さんに私は「何か趣味でも作ったら?」と言って静岡のセノバに教室がある朝日テレビカルチャーの雑誌を勧めてみた。

 

会社を畳んで暫くは出稼ぎで、全く仕事がないときはずっと椅子に座って死んだような顔をしてテレビをみるような人。私が勤めた会社に頼んで雇ってもらって安定した収入が入るようになって明るくなったしご飯とかも作るようになった。

でもやっぱり休日の過ごし方は変わらない。

 

電気も付けないでずーっと真っ暗になるまでテレビをみて、お酒飲んで、柿の種食べて。電気を付けようとすると明るいのが嫌いといって少し怒り気味に制止の言葉をかける。

日が暮れてやっと電気をつけることを許してくれる。

私はそこに居たくない。

飲み物をとりにいく数分でその光景や雰囲気をみて気分が嫌になる。

家にいるならテレビ一緒にみて楽しく会話でもしたいのに、できるわけがない。お臭いし、仕事が休みの日はお風呂にはいってくれない、どんなにいっても入らない。

嫌いなわけじゃない、かといって特別お父さん大好き!というわけでもない。

 

家から追い出そうってわけじゃなくて、いつもつまらなさそうに顔をしかめて(顔がしかめっつらなのは自然とそういう顔つきになっただけらしい)頭も使わずに勿体無い時間の浪費をしているから、だから、何か楽しみになるような趣味をみつけてほしくて話しをふってみた。

 

なんとなくわかってはいたけど答えは勿論やらない。

 

ちょうどその話しをした時は夜中、NHKで自然風景や水族館の映像が流れていると

「こうところに行きたいとか思わないの?」ときいてお父さんは「行きたい

」と答えた。しかし山を登るのは嫌いだと言う。どうしてなのか聞くと「もう人生という山を沢山登ってきた」だそうだ。

私のお父さんは本当に無駄にプライドが高い。昔の武勇伝を語ることによって自我を保つ……とまで大袈裟にはいかないけど、そうやって言い聞かせて自分を強くみせているのだと思う。

確かに話しを聞けば昔は向上心もあった人。

小学生の頃にはもう働いて、定時制高校にいきながら働いてそこでは部活も作ってリーダー格のような人だったらしい。

自分で会社を立ち上げるような人。特に大きい病気はしてこなかったけど、実はうつ病だったことを聞かされた。それは2年くらい前。

出稼ぎにでて仕事がないとうつ状態になっていたのだ。

一匹狼みたいに20数年働いてきて、今は借金返済しながら働いて。定期的なしっかりした休みがあるなら前みたいに新しいことを始めればいいのに、と私は思うのに……。

 

小さい頃はよくわからないまま将棋をしていたし実家の森町のお祭りにも、船のレストランには行っていたのに、中学の頃から家族4人揃って出かけることなんてなくなっていた。でもせめて新しい友だちでも探して笑って休日をすごす日があったほうがいいと思うのに余計なおせっかいだったのかなぁ。

 

昨日の話しで「料理が好きだから料理人になる」なんて言っていたけどそのための行動を一切していない。

何かをするにはお金は必要だ。計画をたてることも。でもお父さんは言うだけだった。

「調理師免許とらなくちゃいけないよ」と言えば「何で俺が他人何かに教わらなきゃなんねぇんだ」という「俺が教えるならわかるけど教わる側なんてふざけるな」という。

お店を開くにしても500万は必要だ、といいながら貯金は一切しない。

3年後何をしているのかをきけば今の会社で働いている。5年後も一緒。

もっと前は野菜を作りたいと言っていたから私はプランターとか土とか育て方とか本を買ったり手伝うし調べるよ、と言った。

でも返ってきた答えは「畑でやりたいから無理」だそうだ。

 

その言葉をきいて思い出したのが随分前に放送していたまぐろ一本釣りのテレビで、「釣りを始めたい」という発言だった。

私は「始めればいいじゃん、釣具屋さん近くにあるよ」と言った。これに対して返ってきた言葉は「高いから無理」らしい。

 

釣り道具一式はピンキリ。初心者なら安いものでいい、そしたら5千円以内で全て揃う。ここでまたプライド意識の高い「ちゃんとしたのしか使いたくない、そしたら5万はかかる」というなんとも疲れてしまう返事ばかり。

お父さんは貯金が出来ない人。

少しお金に余裕があればスーパーで好きなものをかって一人で食べる、お酒を沢山買う。

私がどんなにおすすめをして、どんなに協力するといっても結局はやらないのだ。動く姿勢も見せないだからもう不思議生命態。

 

だから手頃に他人と関わりあえる朝日テレビカルチャーで数万円払って刺激があればいいなって思ったのだ。

 

新しい趣味が出来れば脳も活性化するし手先を使えば衰えもそんな酷くないから。

つまり認知症も怖いから初めて欲しかった、新しいことを。

それを言ったら「認知症になったら腹切って死ぬから安心してくれ」なんて怖い事を言う。

最終的には「俺は今のままでいいから余計なこと言わないでくれ」だそうだ。

 

お前(私のこと)が命懸けで俺に何かしてくれたか?なんて聞くからとくにないと答えた。

そしたらお父さんは「俺だって家族に命懸けて何かしてないんだからそれでいいじゃねぇか」なんてよくわからないことを発して黙ってしまった。

 

 

 

いつも、高校の時から友達の家族旅行の話を聞いて羨んだ。

私は話せないから仕事だったよ、なんて答えた。

会社のお父さんと同じくらいのよく話していたおじさんの親子の話とか、おじさんの休日の過ごし方とか聞いて羨んだ。

でも不潔なお父さんの近くには居たくもないし出掛けたいと思わない、適当なださい服きて外を出歩いて欲しくないくらいには。

 

 

私の昨日の会話は余計なお節介だったのか、親離れ出来ていないのか、結局お父さんは何を考えているのかわからない。

どうすれば頑固でプライドの高いお父さんを動かせたんだろう。

私が釣具をプレゼントしてもきっと今度は時間が無い、デザインが好きじゃないと言って受け取ってはくれなさそうな、そんな人。

 

わからないまま私はお父さんをどう思っているのかもわからなくなってきた。

 

あと10年、20年できっと亡くなる。

どう動いたらいいのかわからない。

 

放っておけばいいとも思ったけど、だったら放っておいても安心できるなって思わせて欲しいなんてわがままな考えも出てくる。

 

でも20代前半の私に親の事は半分死んだと思いなさいなんて言葉は聞きなくなかったなぁ。

 

いつか亡くなるのはわかってるから何かしてあげたいししてほしいって思ったのに。